年次有給休暇(有給)は、スタッフに認められている権利の1つです。
もちろん、聞いたことのある方が大半かと思いますが、実際取得した経験のある方や、詳しい仕組みなどを理解している方は、それほど多くないでしょう。
ここからは、派遣社員の有給に関することを事細かに解説したいと思います。
- 目次
そもそも、年次有給休暇とは?
使用者から賃金の支払いを受けられる休暇日を“年次有給休暇”といい、こちらは労働基準法において、労働者の取得が認められています。
“有給休暇”、“有給”と呼ばれることが多いです。
日本は世界的に見ても、決して有給の取得率が高い国ではありません。
こちらは、日本人の性格上、周りの人が働いているにもかかわらず、自分だけ休むことに対し、罪悪感を覚えるというケースが多いことが理由です。
ただし、近年は政府が働き方改革を推し進める動きもあり、有給に関する労働基準法の改正など、取得率上昇に向けた動きが活発化しています。
有給を取得するには条件がある
有給を取得するには、以下の条件をクリアしなければいけません。
- 雇用の日から6ヶ月以上継続勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
ちなみに、継続勤務とは、勤務先の在籍期間をいい、勤務の実態を加味して判断されます。
また、全労働日とは、出勤率を計算する総日数から、勤務先の就業規則で定められている休日を差し引いた日数を意味しています。
有給は決められた日数がある
有給はスタッフに認められている権利ですが、日数が無限にあるわけではありません。
基本的には、前述した取得条件を満たしている場合、継続または分割した10日分の有給を得ることができます(フルタイムで勤務する場合)。
また、フルタイムより短い労働時間で勤務する場合でも、当然有給は取得できます。
週4日勤務の場合は半年で7日、3年半で10日、6年半以上で15日という風に有給の日数が増えていき、週1~3日でも段階的に設定されています。
詳しくは、以下の表を参考にしてください。
週間労 働日数 | 年間労 働日数 | 6ヵ月 | 1年 6ヵ月 | 2年 6ヵ月 | 3年 6ヵ月 | 4年 6ヵ月 | 5年 6ヵ月 | 6年 6ヵ月 |
5日以上 | 217日以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
こちらの表を見てもらうとわかるように、基本日数に加え、継続勤務年数に基づく追加の有給を取得することも可能です。
翌年1年間も8割状の出勤率をクリアしている場合、継続勤務1年6ヶ月で11日有給日数が付与されます(フルタイムの場合)。
さらに翌年、継続勤務が2年6ヶ月になると、有給の日数は12日となり、その後は毎年2日ずつ加算されてきます。
なお、継続勤務が6年6ヶ月を超えた場合、有給日数は20日に固定され、これ以上は増加しません。
有給にも有効期限がある
有給は継続勤務年数が長ければ長いほど多くの日数を取得できますが、いつまでも保有できるわけではありませんので、注意しましょう。
有給の有効期限は、労働基準法によって2年と定められていて、こちらの期限を過ぎると消滅してしまいます。
もちろん、有効期限が目前に迫っているからといって、一気に取得しようとしても、業務上の問題ですべて消化できない可能性があるため、少しずつ小出しにしていかなければいけません。
ただし、新しく有給が付与されても、昨年度の日数がまだ残っている場合(付与から2年以内の場合)は、繰り越して取得することが可能です。
例えば、有給の日数は最大で年間20日であるため、昨年の繰り越し分、新年度の付与分を合計すると、最大40日まで有給を保有できるということです。
当然、派遣社員(スタッフ)にも有給資格はある
派遣社員の方の中には、「派遣社員でも有給を取得できるの?」という疑問を持っている方もいるでしょう。
しかし、こちらの疑問は完全に不要です。
労働基準法に明記されている有給取得の資格は、あくまで雇用日からの継続勤務年数と、全労働日に対する出勤率に関することだけです。
よって、契約形態は関係なく、派遣社員であっても当然取得することは可能です。
ちなみに、派遣社員には、2019年4月1日に施行された“有給休暇の取得義務化”も適用されます。
こちらは、年10日以上の有給休暇を得た労働者に対し、企業側が時季を指定して、年5日間の有給休暇を取得させることを義務付けるというものです。
もちろん、5日間を自主的に取得している従業員は対象外となりますが、まだ取得していない場合、派遣社員の方も当然こちらの権利を主張することができます。
有給の取り方
派遣社員における有給の取り方は、正社員などの雇用形態のそれとは少し異なります。
正社員や契約社員などの場合、勤務先に申請を行うことで有給を取得できますが、派遣社員は勤務先(派遣先)だけでなく、実際有給を付与する派遣元にも申請をしなければいけません。 つまり、派遣先に話が通っていても、派遣元の担当者に伝わっていなければ、思い通りのタイミングで有給を取れない可能性があるということです。
有給取得までの流れ
ここからは、派遣社員における一般的な有給取得までの流れを見てみましょう。
- 所属する派遣元に有給を取得したい旨を伝える
- 派遣元から派遣先に対し、有給取得を希望する旨を伝えてもらう
- 派遣元と派遣先の日程調整を行う
- 有給取得
ちなみに、派遣元によっては、日程調整を派遣社員自体が行わなければいけないこともあります。
詳細については、事前に派遣元の担当者に確認しておきましょう。
有給取得のタイミング
有給取得のタイミングについては、申請者の思惑通りの時期とならない可能性があります。
なぜなら、派遣元や派遣先には、“時季変更権”という権利があるからです。
こちらは、派遣社員などのスタッフが日付を指定して有給申請を行ったことに対し、会社側から日の変更を求めることができる権利をいいます。
具体的には、会社側の“正常な運営を妨げる場合”に行使できるものです。
ここでいう“正常な運営を妨げる場合”とは、主に以下の場合を指しています。
- 代替人員の確保が難しい労働者が、休暇の開始直前に長期有給を申請した場合
- 複数の労働者が同時季に有給取得申請を行った場合
ただし、法的には時季変更権よりも、派遣社員などの労働者が持つ有給取得の権利の方が強いため、会社側から行使されたからといって、必ずしもそれに従わなければいけないわけではないということを覚えておきましょう。
ちなみに、派遣元または派遣先は、「忙しいので休まれると困る」といった理由で、時季変更権を行使することはできません。
有給取得理由はマストで伝えるべきか?
有給の取得には、冠婚葬祭など何かしらの特別な理由がなければいけないと思っている方は多いでしょう。
しかし、実際はそうではありません。
特別な取得理由がなくても、有給申請は可能です。
また、取得理由をマストで伝えるべきなのか悩む方もいるかもしれませんが、こちらも特に詳しく伝える必要はありません。
“私用”という理由だけ伝えれば、ルール上は問題なく取得できます。
ただし、いくらルール上問題がなかったとしても、派遣元あるいは派遣先の繁忙期などに、何の理由も言わずに有給を取得すると、勤務先での立場が悪くなってしまう可能性があります。
よって、波風を立てないようにするためには、大まかな理由だけでも伝えておいた方が良いかもしれません。
有給を取得する際の押さえておきたいマナー
ここからは、派遣社員が有給を取得する際に押さえておきたいマナーについて解説します。
取得のタイミングや取得理由の項目でも触れましたが、いくら派遣社員にも有給取得の権利があるとはいえ、最低限のマナーを守らなければ、派遣元や派遣先との関係を悪くしてしまう可能性があります。
事前報告は必須
派遣社員の有給については、必ず1ヶ月前までに申請しなければいけない、一度に〇日までしか取得できないといったルールが派遣元・派遣先で定められている場合があります。
よって、取得する直前ではなく、なるべく早い段階で派遣元に報告しておくことをおすすめします。
ちなみに、こちらの事前申請が何日前なら有効なのかについて、法令や通達などでは明確に示されていません。
つまり、派遣元や派遣先の就業規則に記載されているルールがすべてだということです。
情報・データの共有
有給を取得する場合、自身が休んでいる間、別の人員が業務を代わりに行うことになります。
このとき、特に何も伝えないまま有給期間に入ってしまうと、代わりとなる人員の負担は大きくなってしまいますし、それが勤務先全体の業務に影響を及ぼす可能性もあります。
そのため、普段からメールや資料といった情報、データを従業員間で共有しておき、有給を取得したとき、他の人員が業務を把握したり、問題なく遂行したりすることができるよう、準備しておきましょう。
有給中の音信不通はNG
有給の取得期間は、もちろんプライベートの時間を過ごして構いません。
しかし、完全に派遣元や派遣先からの連絡を無視し、音信不通になることは避けましょう。
普段自身が行っている業務に関する詳細や対応など、ある程度のことを従業員もしくは勤務先の上司などに伝えておけば、有給期間中に連絡が来ることはほとんどありません。
しかし、どうしても現場の人員では対応できない不具合やトラブルなどが発生した場合は、連絡が入る可能性があります。
また、それが勤務先に大きな損害を及ぼす可能性があるものであったり、自身の準備不足や伝達ミスが招いたものであったりすることも考えられます。
よって、基本的にはいつでも連絡がつく状態にしておき、緊急時には相応の対応ができるように準備しておきましょう。
有給に関する主な疑問
有給を初めて取得する派遣社員の方は、誰もが同じような疑問を抱くものです。
ここからは、有給に関するよくある疑問について解説していきたいと思います。
派遣先が変更した場合、有給の引き継ぎはされるのか?
派遣社員の方は、正社員などとは異なり、派遣先つまり勤務先が変更になることがあります。
このとき、有給の引き継ぎに関してどうなるのか疑問に思う方は多いかと思いますが、派遣元が同じで派遣先のみ変更になった場合、有給はリセットされず引き継がれます。
新たに6ヶ月以上勤務しなければ、有給が取得できないというわけではないため、安心してください。
ただし、新しい派遣先が決定するまでの間に空白期間が一定期間あった場合、付与された有給はリセットされるため、注意が必要です。
また、どれくらいの期間空白になればリセットされるのかについては、派遣元によって異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
ちなみに、派遣元ごと変更する場合も、有給が引き継がれることはありません。 新たな派遣元から派遣された勤務先で、6ヶ月以上勤務することによって、再び有給取得の権利を得ることができます。
有給休暇中の給料はどうなるのか?
有給休暇中は欠勤とは異なるため、実際は勤務していなくても、当然給料が発生します。
また、支払われる金額については、大きく以下の3つの計算方法によって算出され、それぞれ派遣元によって異なります。
・平均賃金
有給取得日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額を“平均賃金”といいます。
勤務日の給料の60%が最低ラインで、時給や日給で勤務する方の有給には、こちらの計算方法が用いられていることが多いです。
また、こちらには、役付手当や勤務地手当、通勤手当や残業手当なども含まれます。
・通常賃金
労働者に対し、所定労働時間労働した場合に支払われる賃金を“通常賃金”といいます。
つまり、“通常通り1日分働いた”と過程した場合の、1日あたりの賃金がこちらに該当するということです。
ちなみに、こちらには前述の手当が含まれていません。
・標準報酬日額
標準報酬月額を30で割った金額を“標準報酬日額”といいます。
“標準報酬月額”は、健康保険法で定められた基準であり、毎月の給料などの報酬の月額を、区切りの良い幅で区分した金額を指しています。
例えば、東京都で月給25万円の場合、20等級で標準報酬月額は26万円となります。
こちらには、前述の手当も含まれます。
派遣元でどの計算方法が採用されているのかについては、就業規則に定められているため、実際有給を取得する前に確認することをおすすめします。 ちなみに、派遣社員の方が、正社員に比べて月あたりの勤務日数が少ない契約を結んでいる場合、平均賃金を元にした計算方法の方が、通常賃金よりも少なくなるため、こちらに関してはあらかじめ留意しておきましょう。
有給を取得しづらい場合、どうすればいいのか?
日本の有給消化率は50%以下と低く、半分は消滅しています。
つまり、多くの方が取得しづらいと感じ、遠慮しているということです。
もちろん、誰もが有給取得は権利であるということを理解していると思いますが、実際取得するには勇気がいるでしょう。
まず大前提として、有給の取得をスムーズにするために、日ごろから派遣元、派遣先とコミュニケーションを取り、関係を良好にしておくことは意識した方が良いです。
また、もし有給が取りづらいのであれば、派遣元の営業担当者を通し、派遣先に伝えてもらいましょう。
基本的に、派遣先に有給の取得を断る権利はありません。
大抵の場合は、営業担当者を通すことでスムーズに取得できますが、それでもまだ認めてもらえないというのであれば、「労働基準監督署に相談します」と派遣先に伝えることをおすすめします。
こちらは、労働基準法を守っていない会社に対し、指導・送検する権利を持っている組織です。
派遣先の有給取得拒否は、明らかに労働基準法に違反する行為であり、もしこの事実が労働基準監督署に持ち込まれることになれば、指導の連絡が入ります。
もちろん、悪質な場合は、許可を取り下げられ営業停止になってしまいます。
派遣先はこのような事態に陥ると非常に困るため、相談しようと考えている旨を伝えるのは良い対策でしょう。
派遣社員の方に勘違いしないでいただきたいのは、労働基準監督署への相談を匂わせるということは、決して脅しのような悪い行為ではないということです。
本来認められている権利を認めてもらえないわけですから、これくらいの対策は取って当然です。
まとめ
ここまで、派遣社員の有給に関するあらゆる事項について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
派遣社員であっても、雇用先や勤務先に貢献する労働者である以上、正社員など他の雇用形態と同じように、有給を取得することは可能です。
ただし、取得の際や消化中には最低限のマナーを守り、派遣元ならびに派遣先との関係に軋轢が生まれないよう、注意しなければいけません。